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松井秀喜さんが長嶋茂雄さんとともに国民栄誉賞を受賞

逆風に立つ    松井秀喜の美しい生き方逆風に立つ 松井秀喜の美しい生き方

伊集院 静

角川書店(角川グループパブリッシング)

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この本でとりあげられている、松井秀喜さんが長嶋茂雄さんとともに国民栄誉賞を受賞することになったようですね。

つい先日、この本を読んでいた私にとっては、「彼こそ国民栄誉賞を受賞するに相応しい」と素直に思いました。本を読んだ人間にそう思わせるくらいに、松井秀喜という人は、人としての器が違います。

自分の日頃の行いが恥ずかしくなるとともに、旧き良き時代の日本人というものは、こんな感じだったのだろうなあ、と思わせてくれます。

以下、印象に残った箇所を抜粋します。

トーリ(引用者注:松井が所属していたチームの監督)は名将と言われるだけあって、実に人間の観察眼が優れている。春のキャンプから彼は松井秀喜がどんな選手かを見てきた。選手としての能力はもちろんだが、派手なパフォーマンスもしない、有頂天にならないかわりに、調子が悪いときもくさらないし、くよくよもしない。黙々と自分の仕事にベストをつくしている。(中略)松井選手のあの強靭な精神力の源になっているのは、謙虚さにある。これが今メジャーの選手に欠けているものではないか。トーリは、それを口にした。

一人のベテラン記者は言った。「これまで何千人というプロ野球選手を見てきましたが、松井は特別ですね。デビュー当時は、そこらのルーキーと変わらなく見えました。それが年毎に、彼の野球の力が向上していくに連れて、この選手はこれまでのスター選手とは根本的に何かが違っていることに気付きはじめたんです。時々、話をしていて自分が教えられている気がすることがあるんです」「教えられることは野球についてですか」「いや、そうじゃなくて人間としての在り方みたいなものです。変でしょう。自分の孫くらいの若者にですよ。いや松井は将来素晴らしい選手になると思いますよ。今でも充分にスゴイのですが…」ベテラン記者は笑いながら言った。

長嶋茂雄氏の言葉「私が監督をしているときの九年間で、一番練習をした選手は松井です。練習をしているかどうかはわかるんです。一ヵ月、二ヵ月一生懸命する選手はたくさんいます。調子が良くなると、彼等は練習しなくなるんです。それではダメなんです。三年、五年、十年先の自分のバッティングがどうなりたいと思い描いて、それを信じて毎日欠かさず練習ができる選手でないと大成しないんです。松井はそれを唯一できた選手です。松井は器用と不器用で見ると、不器用な方の選手です。でも九年間、彼は一日も練習を怠らなかった唯一の選手でした」

(星稜高校野球部山下智茂監督の話)山下監督が「自分の生涯で松井ほどの打者に出逢ったことはない。これからも出逢うことはないと思う。松井の何がスゴイかと言うと、バッターとしてのパワー、能力もあるが、それ以上に彼の向上するために進んで練習ができる精神力のスゴさだ。三年間の一日たりともトレーニングをいい加減にすることはなかった。そして何よりチームメイトを大切にしてくれた」山下は松井が傲慢な態度を取ったのを一度も見なかったと言う。

星稜高校野球部で大切にされている言葉

心が変われば行動が変わる

行動が変われば習慣が変わる

習慣が変われば人格が変わる

人格が変われば運命が変わる

(二〇〇四年ヤンキースの開幕戦が東京であったため、チーム一行が来日した時の感想)ヤンキースのナインは日本での松井の人気に驚いた。神戸肉の美味さに感動していたジータは、街に出て何百万人もの人が出ているのに道路にゴミがひとつも落ちていないのにさらに驚いた。トーリ監督は日本人の勤勉さと忠誠心の厚さに感動し、このつつしみのある伝統は、“真心”から出来ているものだと理解した。

二〇〇三年一月九日、入団契約にむかった松井選手が到着したニューヨークはひどい吹雪だった。彼はホテルに着くなり、これからの大切なパートナーとなる広岡勲にいきなり言った。「これからグランド・ゼロに行こう」予定にない行動だったが、広岡勲はすぐに松井選手の心中を察した。二人は車でグランド・ゼロにむかった。彼は吹雪の中、一時間、じっと立ったままただ惨劇の跡が残る場所を見続けていた。(中略)あとになってニューヨークの記者が言った。「ニューヨークに着いてすぐにグランド・ゼロに祈りに行った選手は松井が初めてだろう」

彼が一九九三年にジャイアンツに入団した時、「将来どんな選手になりたいですか」と記者に訊かれた。ほとんどの選手が現役で活躍している有名選手の名前を挙げるか、一年目に何勝上げたいとか早く一軍でプレーしたいとか言うのだが、松井選手だけが違った答えを口にした。「子供たちが自分を見に球場に来てくれるような選手になりたい」そんな発言をした新人はそれまでにいなかった。

引用した以外にも「他人の悪口を言わない話」や「心臓病の子どもに寄付をした話」や「サッチャーのように強い篠ひろ子さんを泣かせた話」などの思わず唸るというか、泣けるというか、そういったエピソードが満載です。国民栄誉賞の授与については、いろいろな意味で賛否両論あると思いますが、今回ばかりは、素直におめでとうと祝福したい気持ちです。


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