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「松下は、物をつくる前に人をつくる」



という言葉をご存知の方も多いかもしれません。



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松下幸之助の晩年23年間、側近として過ごした江口克彦さんの著書です。


「上司の哲学」「部下の哲学」に書いてある内容は、

単なる上司論・部下論にとどまるものではありません。


人間に対する愛情、人間の無限の可能性、

人間心理の重要性といった「人」に対する敬意が最大限に感じられます。




「いまさら松下幸之助?」と思う方もいるかもしれません。



しかし、ユニクロの柳井正さんが

「僕は経営学者が書いた本というのは、ドラッカー以外にはあまり読まないんですよ。

好きなのは松下幸之助、本田宗一郎といった優れた経営者、創業者が書いたものです。

彼らが言っていることと、ドラッカーが言っていることは本質的には一緒だと思う。」

と言っているように、多少下火にはなったとはいえ、

まだ続いているドラッカーブームの今、松下幸之助さんに目を向けない手はありません。

2冊ともに、ビジネスパーソンがすぐにでも使えるアドバイスや

唸るしかない感動的なエピソード、深くていい話が満載です。


その中でも、上司の哲学に書かれている、以下のやり取りが私はとても好きです。

今でも、嫌なことがあると読み返して「頑張ろう」と、気持ちを新たにします。

少し長いですが、引用します(青字は、私が考える江口さんの内面です)。

(途中省略)

アメリカのハーマン・カーンという学者が松下に会いに来ることになった。

未来学者のカーン氏は「二十一世紀は日本の世紀だ」と公言し、

当時日本でも話題になっていた人物である。

ある日、松下は私に聞いてきた。

「君、ハーマン・カーンという人を知っているか?」

私はすぐさま「ハーマン・カーンという人は、二十一世紀は日本の世紀だと言っている

アメリカのハドソン研究所の所長で、未来学者です」と得意げに答えた。

松下は「そうか」とうなずいた。

(中略・二日目も一日目と同じようなやり取りがあった)

三日目、またまた松下は聞いてきた。

「君、ハーマン・カーンという人は誰や」

私は半ば憮然とした。もう二回も説明したのに、なぜ覚えてくれていないのか。

(江口さん、「カッチーン!!」)

(中略)

「ハーマン・カーンとは」と少し語気を強めて

私は今までと全く同じように答えた。

(中略)

その日の夕方、(中略)私はハタと気がついた。

「そうか、三日間も続けて同じ質問を繰り返したのは、

私の説明が足りなかったからだ」と思い当たった。

私はすぐに書店に走り『西暦2000年』というカーン氏の著書を手に入れた。

(中略・江口さんが本を読みこみ、概略を記録用紙3枚にまとめ、

その記録を朗読してテープに吹き込んでいる。気が付いたら明け方だった。そして翌日。)

ところが松下はハーマン・カーンについてはなにも聞こうとしない。

(江口さん、「ショボーン」)

昼食の時、松下が「君、今度な…」とそこまで言った途端思わず私の方から

「ハーマン・カーンさんが来るんですよね」と応じてしまった。

「そうや、君、その人のことを知っているか?」と聞いてきた。

(江口さん、心の中でガッツポーズ)

私は心はずむ思いで報告した。

(中略・せっかく吹き込んだテープを渡し忘れている件がある)

松下が帰るという時に思い出して、

そのテープを私は車に乗り込んだ松下に手渡した。

「ああ、そうか」と松下は受け取ると車のシートに置いた。

(中略・たぶんテープは忘れているだろうなあという件がある)

翌朝、松下を迎え、車のドアを開けた。

松下は車から降りて、私の立っている真ん前に来て、私の顔をじっと見た。






そして、ニッコリと笑うと、






「君、なかなかいい声しとるなぁ」

と言ったのである。
(江口さん、号泣)


(引用終わり)


ハーマン・カーン氏に関する江口さんの説明に対して、

一度目で「もう少し詳しく知りたいから、調べてください」

と命ずることは簡単です。

しかし、松下幸之助さんは、都合四回も同じ質問をし、

その間、江口さんが自ら気づき、自ら動くことを待ち続けました。

「人をつくる」という真髄を見た気がします。