孫子の有名な言葉「彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず」
この格言はご存知の方は多いのではないでしょうか。「敵を知り、自分自身を知るならば、戦いに負ける心配はない」という意味の格言ですね。「風林火山」と並んで広く知られている、孫子の有名な言葉になります(ちなみに風林火山は戦国時代武田信玄が旗印にしましたが、オリジナルは孫子の言葉です)。
このフレーズがあまりにも有名であるので、これに続きというかセットになっている言葉があることは意外に知られていないかもしれません。孫子は以下のように続けています。
・彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず
・彼を知らずして己を知れば、一勝一負す
・彼を知らずして己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし
これらは、それぞれ「敵を知り、自分自身を知るならば、戦いに負ける心配はない」「敵を知らなくても、自分自身を知っていれば、戦いは五分五分である」「敵を知らなくて、自分自身も知らなければ、戦いに勝てる道理がない」という意味になります。
公平な見地から全体を客観的に見ることの重要性を説く
現代ビジネス社会においては、マーケティングだとか、SWOT分析だとかが隆盛であるので、自社製品の強み・弱みや競合の動き、市場の状況、社会のトレンドなどをとらえる、いわば「彼も己も」知るような動きが十分なされているともいえます。しかし、それでも、この孫子の言葉を今一度噛み締めてほしいと思います。
孫子のこの言葉は、ただ単に情報分析・情報収集の重要性を述べるに留まらないといわれています。さらに一歩進んで、主観や思い込みをすることなく、可能な限り公平な見地から全体を客観的に見ることの重要性を説いています。
自分に都合のいい意見は過大に評価し、耳に痛い意見は遠ざけるのが人間の習性ですよね。ビジネス上、事前調査やその分析はお金や時間をかけて詳細に行われることが多く見られます(とはいえ、昨今の経済状況から、これらができないケースも増えてくるかもしれません)。その調査・分析結果を一面的・表面的になることなく全体的に見渡すことができなければ、戦いを挑まないほうが賢明であるといえます。
また、論理的に考えると、孫子の言葉の3パターンのほかに、「己を知らない、かつ、彼を知っている」というパターンも成り立つはずです。しかし、なぜ、孫子はこのパターンに言及しなかったのでしょうか。入れるのを忘れたのでしょうか。
もちろんそうではありません。己さえ分析できない人間が、どうして他人である敵のことが知ることができるだろうか(知るはずがない)、ということで孫子は無視したのです。それほど自己を客観的に分析するのは難しいものなのでしょう。
ビジネスパーソンとしては、自分自身のことを客観的に知り、そのうえで相手のことを知るということを忘れないようにしたいものです。
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